Client Voice アナログな勤怠処理からの脱却、OCR+RPAで大幅な効率化を目指す
研究費の予算管理で生じる勤怠のアナログ処理
上智大学、短期大学、専門学校、高等学校及び中学校の教育部門を持つ学校法人 上智学院。
その上智大学、短期大学、専門学校に所属する教職員の給与、経費、勤怠など、人事に関するさまざまな業務を請け負うのが人事局人事サービスグループです。
同グループが人事処理を行う人数は教員、職員やアルバイトも含め2,500名ほどに及び、スタッフの勤務処理は基本的に勤怠システム上で行われます。
しかし、一部に制度上の都合からシステムでは管理ができないものも存在します。
「私たちの予算には、国や産学連携の企業から研究費名目で提供されるものがあります。当然ですが、それらの扱いには公正さと適正さが求められます」と語るのは人事局人事サービスグループチームリーダーの関井氏です。
研究費として提供された予算には「何にいくら使ったのか」を正確に報告する義務が生じるため、ある研究費の予算枠で採用された人材は、その枠内で管理しなければなりません。
例えば、その人材が3つの研究に関わっていた場合は、3つの研究費枠ごとに管理が必要となり、勤務表は虚偽記載を防ぐためとして、本人の直筆、捺印、管理責任者の直筆及び捺印を求めています。
そのため、一部のスタッフについては、紙の出勤表に勤怠状況を手書きし、雇用責任者の確認を受ける手順を踏まなければなりません。
至上命題に掲げられた業務の効率化
当時、このようなアナログ対応が必要な研究費で雇用されたスタッフ職員は約700名おり、その勤怠処理には膨大な時間と手間が掛かっていました。
加えて、予算の使い道については定期的な研究費提供者の監査が入るケースも少なくありません。
報告書の内容に間違いがあると大きな問題になり、ミスや漏れがないように何度となくチェックを繰り返します。
その作業にかかる人事局職員の精神的な負担は大変なものがありました。
「私たちとしても、このような状況は早々に改善すべきだと感じていました。学院全体としても業務効率化が至上命題だったので、”失敗してもいいからとにかくやってみよう”となったのです」と同サービスグループの宇都宮氏は当時を振り返ります。
OCR+RPAを用いた自動化を検討
業務効率化の手段について検討を進めていくなかで、関井氏らがたどり着いたものが紙の出勤表をOCRで読取り、デジタルデータをRPAを用いて集計・チェックするシステムでした。
「実は、以前にいくつかのベンダーさんからRPAのご提案はいただいていました。ただ、当時はまだRPAの効果には懐疑的で一旦見送りました。その後、他大学で伝票処理にAI-OCR+RPAのシステムを利用しているとの話を聞いて、私たちの業務の中でも使える部分があるのではないかと考え、一度、提案してもらおうという流れになりました」(関井氏)
まず関井氏らは、製品を選定するため、それぞれ別々のRPA製品を扱う既知のベンダー3社に提案を依頼。 検討を重ねた結果、UiPathを採用することと決定しました。
関井氏によると、「UiPathの製品はオブジェクト認識型で、画像認識型よりも精度が高く、またUiPath以外の製品は大規模向きで、私たちの身の丈に合っていないと感じました。さらに他製品と比較しても価格は抑えめで、スモールスタートしやすいプランが用意されていたので、最初に試すにはもってこいだと感じました」とのことでした。
その後、製品をUiPathに限定し再度各社へ提案を依頼。提案内容を比較検討した結果、開発パートナーとして選ばれたのが、ARアドバンストテクノロジ株式会社(ARI)でした。
「他のベンダーさんは打ち合わせ時に、営業さんだけが参加しているケースも多かったのですが、ARIさんはプロジェクトに関わる技術者の方が常に同席し、RPAをどのように活用すれば最も効果を上げられるのか、我々と同じ立場で意見を出してくださいました。最後にはその技術者の方が、”最初から最後まで私が責任を持って担当します”と力強く宣言してくれたので、その安心感が一番の決め手でした」(関井氏)
チェックに掛かる手間と精神的な負担が大幅に軽減
当初、2021年の2月から試験的な運用がスタートする予定でしたが、「OCRの読み取り精度に課題があったため」その改修に3カ月ほど費やし、2021年の4月分出勤表よりシステムの運用がスタートしました。
精度に課題が生じた理由としては、読み込む画像に不具合が多かったことが挙げられます。
コロナ禍の影響により在宅勤務をするスタッフが増えたため、勤怠処理は勤務表のスキャンデータを送信して行う手順となりました。
しかし、スタッフ全員の自宅に高精度のスキャナーがあるとは限らず、画像精度が粗いPDFで送られてくるケースもあれば、スマートフォンで撮影したjpeg画像が送られてくるケースもあります。
その画像も、ゆがんでいたり、撮影した勤務表に折り目がついていたりすると、読み取り精度が低くなってしまいます。
「なにぶん初めてのことなので、”普通はこんなものなのかも”とも思っていました。ですが、もしまだ改善ができるならとARIさんに相談してみました。すると、精度をあげるためにサンプルデータが必要ということで、実際のスタッフ職員を想定した様々なパターンのOCRチューニング用のサンプルデータを4000件も自前で用意してくれました。またABBYY社とも打合せの機会を設けて頂き第三者検証を実施するなど、課題に対して多方面から真摯に向き合って下さいました。結果、読み取り精度は、我々が思っていた以上に大幅な改善となり本当に驚きました」(宇都宮氏・堀内氏)
※本PJでは、AI-OCRの製品としてABBYY® FlexiCapture® (ABBYYジャパン株式会社)を採用。ABBYY、FlexiCaptureは、ABBYY Software Ltd.の登録商標または商標です。
なお、改修後のリリース時の読み取り精度は99%以上を達成しているとのことです。
システムの導入効果については「運用を始めて間もないため1年を通しての数値は算出できていない」ものの、関井氏によると「手作業に比べ時間数として65%以上は削減できたと思います。何より「担当者が間違いを探す」作業から「間違いをシステムが報告し、担当者が確認する」作業になりましたので、担当する人事局職員のミスに対する精神的なプレッシャーが大幅に減ったことが大きな成果ですね」と語られておりました。
ちなみに現在はプロジェクトの第一段階として約200件/月の勤務表を、OCR+RPAシステムで処理しているそうで、今後はより広い雇用形態への対応や学院内での内製化を進め、自動化・効率化を一層推進していきたいとのことでした。
「現在は、まだ一部にしかシステムを適用できていませんが、今後は適用範囲をもう少し広げていく予定です。これからもARIさんに頼る部分は多いと思いますので、引き続きよろしくお願いします」(関井氏)