Client Voice 既存の新聞作りに大きな革命を起こすビッグプロジェクト裏側にせまる!
ITから会社全体を見通せる。マルチタスクが可能な企業
ARIと日刊スポーツ・方正(株)の協業プロジェクト『組版AI』は、既存の新聞作りに大きな革命を起こすビッグプロジェクトだ。
プロジェクトに至るストーリーはどのようなものだったのか。
日刊スポーツ新聞社のシステム統括本部で、副本部長兼部長を務める山中俊幸さんに話をうかがった。
そもそもの出会いは、2012年、日刊スポーツがARIにインフラコンサルを依頼したところから始まる。
「もともと、ARIさんにはインフラコンサルでお世話になっていました。5年10億規模の巨大なシステム更新で悩んでいたところに、ARIのコンサルタントの方をご紹介いただいて、そこで信頼関係ができたのが、現在のプロジェクトにもつながっていますね」
2012年のインフラコンサルを通しての出会いから、足掛け5年。
これまで担当者に任せきっていたというインフラ業務も、ARIの参入によって変化していった。
「まずは現状の環境の分析、今後どうすればいいかの将来展望を作っていただき、要求仕様や、ベンダーさんの選定作業もずっと一緒にやってもらいました。ベンダーさん決定後は、要件定義や複数のベンダーさん間の調整まで、うちの社員と同じような立ち位置で協力してくださいました」
社内にARI社員の常駐席を設け、常に何人かいるというラボ型の契約によって、意見交換も盛んに行うことができたという。
相談もレスポンスも即時対応してくれる心強さがあった。
「ARIさんとの仕事の効果は、すぐに現れました。コンサルの方はARIの役員の方なのですが、頭の切れる方で、ITから会社全体を見通せる力を持っている。スキルも経験もずば抜けてあって、でも、それだけに依存しない。地道な業務分析をしてくれたのも大きかったです。弊社全体の構築後の運用も、ARIさんにぜひおまかせしたいと思えるような形になりました」
ARIのコンサルタントによる鋭い業務分析は、その後の信頼関係につながったという。
「業務分析に優れているということは、好奇心や想像力があって、想いを働かせて形にする力がある企業なんじゃないかと感じたんです。仕事も枠にとらわれず、コンサルティングも構築もやるし、積極性にあふれている。コンサルって人間で言えば頭脳だし、構築は手足になる。ARIさんはどちらもできて、ユーザー側に入ってもベンダー側に入っても、マルチタスクがこなせる。枠にとらわれない人材や仕事のやり方を持っている会社だなという印象を持ちました」
提案型の会社だからこそ始められた、挑戦的なプロジェクト
ARIのインフラ調査は2015年3月まで及び、その後は構築支援の段階へと移り変わった。
ベンダーである「キヤノンIT ソリューションズ」と、日刊スポーツには、ARIよりスタッフが複数名常駐され、作業は進行。
山中さんはARIを「提案型の会社」だと語る。
「ARIさんは、常に先取りして提案をしてくれるので、有り難いんです。いいなと思うアイディアも次々とでてきますし、製品開発の流れに入ってからも、我々とベンダーさんがスムーズにいくよう、バックヤードでがんばってくれた。開発側と弊社の運行スタッフ側、双方にARIさんのスタッフを派遣していただくことで、スムーズに開発を進めることができました」
そして、2017年4月より方正(株)が開発した組版システムにAIを搭載するという『組版AI』のプロジェクトが締結した。
今後AI組版プロジェクトは長きに渡り、開発を重ね、制作していくことになっている。
そもそも『組版AI』とは、どのような機能を持つものなのか。
「『組版AI』とは、新聞の組版システムを動かすための機能です。いわゆる新聞のレイアウトを、AI、人工知能が決めて行います。記事の量や写真の枚数、そういったものを情報として学習して、日々の素材をどこにどのぐらいの大きさで配置し、どこに記事を流すか。全部AI側に決めてもらう。そして、最終的に一枚の新聞を作っていこうという流れです」
何気なく読んでいる新聞には、完成までに多くの作業工程が含まれる。
写真を送る、記事を流す、見出しを作る、流した記事があふれたら切る。
毎日、膨大な量の情報を扱いつつ、時間との勝負でもある新聞作りには労力もかかる。
日刊スポーツでは、現状、編集局整理部の記者がラフにデザインを書いて、レイアウトして素材を取り込み、端末で一つずつ組み上げていく、という作業を行なっているが、これをAIがこなせるようになれば一気に効率化できるわけだ。
「一枚の紙面でも状況によって組む手順は何十パターンもあります。何をどこから組み始めるか、状況によって違うし、臨機応変に対応しなくてはならない。そのための人工知能であり、たくさんの機能が組版自身にあるので、これをもっと使い込なすために存在するのが、AIの役割だと僕は理解しています」
新聞を作るためだけにワークフローを組み立てる時代は終わった
従来の新聞作りの常識を打ち破る『組版AI』だが、デザインをAIに任せるためにも、まずはAI自身に「新聞作り」というものを学習させなければならない。
紙面のデータベースから、一番最適化されたレイアウトをAIが即座に取り出せるようにするためだ。
「まずは対象となる新聞の1年分のレイアウトを、AIに学習させるところから始めました。組版システムがどんな機能を持っているか、わかっていないとAIから指示がだせません。当然AIを構築するSEの方にも、新聞の組版について、一から勉強してもらいました。すごく大変だったと思いますね」
現在も『組版AI』は膨大なデータを学習中だ。
また、山中さんがSEに向けて新聞の基本や組み方、パターンなどを講習会という形で教えているという。
「いまは、実際に組版端末をARIさんに置かせていただいて、どんな機能があるかを精査する段階に入っています。目標としては、2019年に一部リリースを実現化させたい」
今後は対象となる紙面を投入するステップに入っていく。
そして2年後には1紙、2紙と『組版AI』を実装し、日常の仕事に組み込んでいくわけだ。
それは新たな新聞、雑誌作りの時代の幕開けを意味する。
「新聞には、このニュースを伝えたい、伝えなければならない、という送り手側の意志や意図がありますが、インターネットの世界は違う。何が大事か何が読みたいかは、ユーザーが決める。読者が決める。だから新聞社としても今すごくジレンマがあると思うんですね。ネットからAIで自動的に新聞をつくるなら、当然ユーザー主導っていうことになる。でも自分たちの伝え方も大事にしていきたい。メディア主導かユーザー主導か、どちらに流れていくのが正解なのか」
人工知能が加わることで、これまでのメディア主体だった情報発信のスタイルも、大きな変革を迎えるのではないかと山中さんは話す。
「新聞を作るためだけにワークフローを組み立てる時代では、もうないかもしれない。もちろんある程度、人間の指示や意図が入る可能性はありますが、最終的にはネット上の各サイト、各ジャンルのなかで最も読まれている読者人気の高い写真や記事が、新聞でも一番大きなスペースになるのではないでしょうか。新聞社も、そういうコンテンツを深く掘り下げていく時代に入ってくるだろうと思っています」いずれにせよ『組版AI』の投入によって、新聞社の働き方が大きく変わっていくことは間違いない。既存のスタイルを打ち破ってまで、『組版AI』を使うメリットは、どこにあるのか。
「弊社はグループで70紙の受注制作、印刷をしています。簡潔に言えば、関わる人間の数が減れば生産コストも減る、という効果が得られます。人間の仕事がどんどん減るという課題点はありますが、生産のための内部コストが減るのは、顧客にとってもメリット。制作コストがダウンすれば、安い額で市場販売できるし、それでも利益率は上がるからです。そういう狙いが『組版AI』にはあるし、サービスを提供する側と提供される側が、Win-Winの関係になれる仕組みだと思います」
しかし、まだどこも実現化していないシステムだけに、まだまだ課題点も多いようだ。
「実は、AIが一番苦手なのは見出しをつけること。見出しは短文でセンスを求められますから。要約ができたとしても見出しをつけるのはなかなか難しい。でもレイアウトに見出しは欠かせません。このへんをどう処理していくかが、今後、大きな課題になっていくと思います。また、ARIさん自身に新聞の組版経験がない、という点は、今後の成長を感じる部分でもありますね。『組版AI』は新聞制作に特化しているので、一般的なシステムともかけ離れている。やはり新聞をいかに深く理解して、組版システムをどこまで機能把握できるかが勝負だと思います」
ユーザーの言いなりになっているだけの会社は、いいものをつくれない
今年度の春に始まったばかりのプロジェクト。
ARIに山中さんがかける期待感は大きいようだ。
「ARIさんにここまで期待できるのは、ユーザーに厳しいことが言える企業だから。最近コンサルティングってたくさんあって、どこもITコンサルやってます、みたいな時代ですが、いわゆる会社の経営が喜ぶ御用コンサルのような企業が多い気がします。でもARIさんはそうじゃない。ちょっと言いにくいような弊社の課題や、改善点をズバズバ指摘してくる。そのときは腹も立ちますが(笑)。冷静に考えてみると納得できる。コンサルティングでも開発でも、ユーザーの言いなりになっているだけの会社は、いいものをつくれないと思います。ARIの方は、そこを厳しく突いてくるんですね」
ARIは調査能力、分析能力、提案能力、実際のプロジェクトを管理する能力をバランス良く持っている会社だと、山中さんは分析する。
何よりARIのスタッフが新聞に興味を持ってくれるのが嬉しいそうだ。
「ARIさんって、ユーザー側に立ってベンダーさんとも戦ってくれるんです。そういう存在を求めている会社って、実はすごく多いと思う。間接部門の外注化で空洞化したユーザーのスキルやマンパワーを埋めてくれる存在だし、まるで弊社の社員のように一体となって頑張ってくれます。どんな難しいプロジェクトでも、彼らだったら一緒にやれるんじゃないか。そういう期待感を持たせてくれる会社ですね」
山中さんがARIに寄せる信頼は大きい。
新聞のレイアウトを、AIが全てデザインする。そんな未来も近いのかもしれない。