Client Voice 教育業界をリードするベネッセ様が、新規サービス開発を3ヶ月で実現できた方法とは?
『eポートフォリオ』と『コンテンツマーケット』が目指すモノ
文部科学省は、2020年より小学校でのプログラミング教育必修化を発表した。
これを受けて、子供たちの学習を長年サポートし続けてきたベネッセは、プログラミング教育に関する新しいサービスを立ち上げ、それをARIが支援することとなった。
それが、『eポートフォリオ』と『コンテンツマーケット』の2つのサービスだ。
ベネッセコーポレーションで商品開発推進部のプロジェクトリーダーを務める後藤義雄さんと、同じく商品開発推進部に所属する小田理代さんに、今回のプロジェクトについて話を聞いた。
「『eポートフォリオ』というのは、プログラミング教育の課程で、子どもたちが制作した作品をアップしていき、作品の振り返りを行うものです。子どもたちの理解度がどれくらい深くなっているかを“見える化”し、学習の履歴として残していきます。一方、『コンテンツマーケット』は、プログラミング教育をする際、どのような内容で授業化していくか、先生に授業案をご提示するもの。前例がない授業だけに戸惑う教職員の方々も多いと思うのですが、IT化社会を生き抜くために必須とされてくる能力を、子どもたちの好奇心をくすぐる形で教えるにはどうしたらいいのか、一緒に考えていける手助けになればと思っております」(小田さん)
プロトタイプの開発段階から、このプロジェクトにずっと携わってきたお二人。
プログラミングという、まったく新しいジャンルでのサービス提供は、ベネッセにとっても大きな挑戦だ。
ベネッセがプログラミング教育のコンテンツに力を入れるのには理由があった。
「2020年に学習指導要領が改訂されますが、これは戦後最大の改訂と言われるほど大掛かりなものです。我々は学習を後押しできるような立場でずっと仕事をしてきましたが、ここまでの大きな改訂は初めて。ぜひ新たな教育分野のサポートができればと思い、このプロジェクトを立ち上げました」(後藤さん)
IT人材の最新動向と将来推計に関する調査結果によれば、2030年には70万人以上のIT人材が不足するとの予測も発表されている。
IT関連ビジネスが急成長していくなかで、人材育成が今後、急務となるのは目に見えていた。
そのなかで『eポートフォリオ』と『コンテンツマーケット』は、どういった位置づけを担っていくのか。
「『eポートフォリオ』は、これまでの学びの成果をテストの点数だけでなく“私はこれまでこのように勉強してきた。だから今後はこんな成長が期待できるんだ”ということで示す、新たな手法の一つと考えています。現時点ではまだプログラミング教育の評価基準が完全にできあがっていないので、そこを慎重に検討しつつ、ARIさんと一緒に作っている段階です」(後藤さん)
現状の『eポートフォリオ』が記録する学習履歴は短期的なものだが、ゆくゆくは小学校から大学入学まで一生涯アップし続けることができるようになれば、と考えている。
一方、『コンテンツマーケット』はプログラミングをどう子供たちに根付かせるか、先生たちの授業案をサポートするために制作。
紙で伝える指導書とは異なり、『コンテンツマーケット』は、これまでにない指導案のWebサービスを目指している。
「子どもたちにプログラミングの魅力を伝えるためには、まず先生に興味をもっていただかなければいけません。より先生たちの理解を深めるためにも、『コンテンツマーケット』では、例えば動画で見せるような、新しい学問にフィットしたインタラクティブな指導書を作っていきたい」(後藤さん)
スピード感のある開発と柔軟な対応力。動き出したプロジェクト
しかし、どちらのサービスも前例がないだけにARIに依頼する以前は、課題点も多くあったという。
「プログラミング教室や専門学校での授業を参考にしつつ、普通の小中学校で教える最適なレベルを、どこに落とし込んだら学びの目的が達成できるのか。そこを探りながらの作業となりました。サービスそのものの検討事項も多く、大掛かりなプロジェクトなので一つ仕様を変更するのも、とにかく時間がかかる。ARIさんと一緒にサービスを始める前は、開発の柔軟性に欠ける部分を課題として強く感じていました」(後藤さん)
そんななかで2017年2月、ベネッセはARIに協力を依頼。
ARIの支援のもと、立ちどころに3月上旬には体制を構築し、開発は開始された。
2017年GW明けには、プロトタイプの第一弾を提供。ARIに仕事を任せるようになり、プロジェクトにも変化が見られたという。
「ARIさんを選んだ理由は、ほとんど同じチームのように、毎週、細やかな相談、確認をしつつ作っていける安心感があったことが大きいです。きっちりした仕様も枠組みも固まっていない状態でのスタートでしたが、いつも丁寧に対応していただけて、柔軟でありながら、パワーもある。アジャイル的な進め方のおかげで、少数精鋭のチームでリスクも最小化されました。実装から修正、リリースまでを、ここまでのスピード感を保ちつつ実行できたのもARIさんのおかげだと思っています」(小田さん)
これまでの経験から、サービス実現化のためには自分たちで100%固めた状態で進めていかないと難しいのではないかと、感じていたという小田さん。
しかし実際にARIと仕事をするなかで、「意図を即座に汲み取って構造化していただけた。これは信頼できるなと、すぐに感じました」と語る。
「ARIさんは、制作プロセスのなかで、常に丁寧なヒアリングを行ってくれます。また、システム設計とデザイン設計を同チーム内で同時進行しているので、効率的で非常に無駄がない。同じチームだからこそスケジュールも調整しやすく、進行がスムーズなんです。1をいうと10で答えてくれる。一つ何かこちらが要求したとしても、それに応じて事前に何パターンか作っておいてくれるので助かっています」(小田さん)
「ARIさんがいいのは、あまり仰々しいものを提案しないところ。開発会社によっては、大袈裟なものを提案してきたり、必要以上に華美だったりということもあります。その点、ARIさんは非常にちょうどいい落とし所を見つけて、現実的でありながら、ニーズにはしっかり応えたものを考えてきてくれる」(後藤さん)
先週は、実際に『eポートフォリオ』を使い、小学校で授業をしてきたばかりだという後藤さん。
『eポートフォリオ』があれば、知識の定着、経験の定着を可視化することができる。
オンラインで子どもたちの学習の軌跡が見られる試みは、親御さんたちにも喜ばれた。
「『eポートフォリオ』は授業で使うという点から派生して、ご家庭でも活用できるのが醍醐味だと思いますね」(小田さん)
先生や親たちのプログラミング教育への理解が得られれば、『コンテンツマーケット』でのプログラミング授業の提案もより、受け入れられやすくなる。
「『コンテンツマーケット』は、そのサイトさえ見ればプログラミング授業のやり方もわかるし、実際に授業を行うことができるような、先生たちにとって頼り甲斐のあるサービスにならなくては意味がありません。プラットフォームとして機能できるようなものを作りたい」(後藤さん)
目指すは全国展開。プログラミング教育で育成される子どもたちの資質
教育現場からの反応も概ね好評だ。
しかし、時には反発的な意見が上がることも。
そこにはプログラミング教育の重要性が、教師たちに十分に理解されていないという一面があるようだ。
「そもそも、プログラミング教育をやるべきなのか?という疑問を抱く先生たちは意外と多くいらっしゃいます」(後藤さん)
プログラミング教育の必要性は、なにもIT人材育成のためだけではない。
そこには今後の多様な社会を生き抜いていくための思考力を養う目論見もある。
そういった能力がこれから先は必ず必要になってくる、と後藤さんは語る。
「プログラミング教育というのはパソコンを扱うスキルだけでなく、課題発見、課題解決能力を育てます。機械なりゲームなり、世の中の仕組みの裏には必ず誰かが作ったプログラムがある、ということを早い段階から理解して、普段何気なく使っている身の回りのものにも深い思考力を養えるようになってほしい」(後藤さん)
小学校のプログラミング教育は、開発のための実践的な授業というより、問題解決の力、物事を分解、抽象化する力、表現力の育成が目標となってくる。
深く考える習慣を幼い頃から育むことができれば、総合的な成績にも影響されてくるはずだ。
「2017年のうちに、先進性ある学校にアプローチしていき、サービスをわかりやすく伝えられる状態で実績を重ね、2020年は本格的に両サービスを全国展開していきたいと考えています」(後藤さん)
10年後、20年後を見据えたシステムの開発、構築を任せたい
プログラミング教育の正式な導入まで、あと3年。
まだまだ発展途上のサービスを共に育んでいくベネッセとARIだが、今後のARIにベネッセはどんなことを期待しているのだろうか。
「ARIさんとは、共に考えながら一体感を持って作っていけるところにすごく大きな価値を感じております。プログラミングという、まだ解のないコンテンツにおいて、ARIさんは弊社にとって欠かせない作り手。引き続き一緒に悩みながら、ユーザーの理解も深めていければと思っています」(小田さん)
「文科省の方針も含めて更に変化していくものなので、決して現状が完成系ではない。コンテンツを授業として戦略的にどう扱っていくか、もっと練っていく必要が出てくるでしょう。今後は、ARIさんの協力を得ながら、プログラミング教育を前提としたWebメディアの開発や、小学校でのプログラミング教材の素材開発などにも挑戦していきたい。ARIさんとならそれができると確信しています」(後藤さん)
10年後、20年後、プログラミング教育は、社会全体で必須の学問になっていくだろう。
そこまで見越したサービスの在り方を考えていきたいと後藤さん、小田さんは語る。
まだまだ未知数な教育分野のなかで、ベネッセとARIが目指すものは大きい。